『THE WITCH 魔女』
2018年に公開された韓国映画。主人公が「梨泰院クラス」のキム・ダミでもあり、話題を呼びました。映画は一部作の「転覆」、二部作目の「増殖」に分かれていますが、今後、三部作目も期待させるような終わりかたになっています。
ただ、一部作、二部作目の主人公の頭痛の起き方は同様のメカニズムと考えます。
- 『転覆』
「梨泰院クラス」のキム・ダミが主人公の『魔女』の第一部作。超人的な知力、体力が備わる人間を作るべく脳科学の第一人者であるドクター・ペクが様々な遺伝子操作や脳細胞の移植などを施す特殊施設で育ったク・ジャユン(キム・ダミ)が8歳の時に施設から逃げ出し、記憶を失ったジャユンを助けてくれた優しい酪農家夫婦の娘として暮らすことになる。そして、何事もなかったかのように10数年の歳月が過ぎ、ジャユンは頭に異変を感じるようになる。頭部の激痛と鼻血を繰り返し、フラッシュバックのように、ある施設での様々な血液や脳波のサンプリング、また、家畜の殺戮などの映像が浮かぶ。
育ての親である酪農家の経営状況が良くなく、それに加えて養母はアルツハイマー型認知症のような症状を認めており、賞金が出る歌のオーディションを受けることを決意する。
オーディションのためにソウル行きの電車内で見知らぬ男性から執拗に「下手な芝居は止めろ、昔のことを覚えていないのか?」とせまられる。その男性に殴られそうになり、怯えて涙するジャユン。その正体不明の男性は電車内のトイレ付近で肩がぶつかったやくざ紛いの男性を一瞬にして殺戮してしまう。
オーディション番組で素晴らしい歌声に加え、マイクを空中浮遊させるマジックを披露したことで謎の男たちから追われることになる。
その後も突然の頭痛と鼻血は続き、心配になり医師の診察やMRI検査を受け、手術を受けないと余命2~3か月と診断される。根本的には実の親から骨髄移植を受ける以外に治療法はないと・・・。
オーディション後に自宅近くでバスを待っているとソウル行きの列車内で遭遇した男性が再びジャユンの前に現れる。「早く帰らないと両親が危ないかも!」、「歳だから死んでも不思議でない」と言われ、焦って帰宅するジャユン。帰宅する養父と親友の父(警察官)が将棋をしている。
その後、ドクター・ペクの元同僚の遺伝子研究者達が次々と謎めいた4名の特殊能力者(ソウル行きの列車内で遭遇した男性も、その一人)に殺害される。
時を同じくして、その番組を観ていたドクター・ペクも、ジャユンこそが自分が手を施した超人であることを確信する。ドクター・ペクはジャユンを自分の手元に回収したい、殺すのは惜しいと言うが、ジャユンは制御不能な子であり、生かしておくのは危険と用心するように伝える。
ここから話は急展開する。
ジャユンを殺害すべく、ドクター・ペクが所属する本社の精鋭暗殺部隊がジャユンの自宅に忍び込むが一瞬にしてジャユンに殺戮される。その力に親友のミョンヒは完全に引いてしまうのですが、そこに謎の4名の特殊能力者もジャユンの自宅に来て、ジャユンは「何故、自分に近づいてくるの?」と理解できない様子をみせる。親友のミョンヒもジャユンは普通の子だと言い張る。しかし、ソウル行きの列車内で遭遇した男性が「ジャユンはいつも牛の世話や家事で忙しく勉強をしていないのに、成績は学年トップどころか全国トップレベル。全国一位になると不審に思われるから手を抜いている。歌も絵も上手く、外国語も一度聞けば自由自在に使いこなせる。」と言う。その男はさらに「額の傷はジャユンにやられたものだ」とも。「今から自分たちについて来い。さもなくば、養父母もミョンヒも死ぬことになる!」と言われ、4名の特殊能力者について行くジャユン。そこでもフラッシュバックが起き、4名の特殊能力者はclassification 3(1がベストで3は程度が低い)、ジャユンは唯一、classification 1であったことも見えてくる。つまり、ジャユンだけが完全体の超能力者であるということも確実に理解する。連れてこられた研究室でドクター・ペクから「何か思い出した?混乱しているだろうけど、私は脳の研究では世界一の専門家だと思っている、特にジャユンのような遺伝子操作された人の脳に関してはね。私があなたを作り出したのだから母親よ!でもジャユンのような特に優れた超人は制御不能と上層部は恐れ始めていた。優れた運動能力の持ち主の遺伝子を移植し、知力・運動能力に優れた完全体だったが故に上層部はジャユンを廃棄しろと命じられた。もう思い出したでしょう?」と。そして、「長年、ジャユンを探したが凶暴な本能を持つから平凡は暮らしをしているのを見て驚いた。それも10年も経っているので脳が爆発してもおかしくないはず。今にも眼が飛び出して頭が割れそうでしょ?ジャユンも脳の動きを制御してから他の機能を低下させているのでしょうけど、根本治療は親からの骨髄移植しかないのに、実の親がわからないでしょう?だけど、私ならばジャユンを死や苦痛から救える。この注射を打てば症状は悪化しない。毎月、この注射を打たないと死ぬことになる」ともジャユンに告げる。ジャユンは注射を打たれた後「正直、期待以上に効く!ドクター・ペクが解決策を知っていると思っていた。頭の良い私が、自分やあなたが何者か忘れるわけないでしょ?私も長い間、ドクターを探していた、でも探し出すのは困難極まりなかった。なので、余命が短いと言われて、逆にドクター・ぺクから私を捜させるように仕向けた」と。
ドクター・ペクによる作品である4名の特殊能力者も、ドクター・ペクもいとも簡単にジャユンに殺されてしまう。最後まで生き残らせた“ソウル行きの列車内で遭遇した男性”にジャユンは「正常に生きられる注射薬はどこで製造しているか?」と聞くと、「たぶん、本社の研究室だろう」と。結局、本社の研究室の場所を聞くことはできず・・・。
実はドクター・ペクは双子で、殺されていない妹も研究者でペク総括として存在していた。ジャユンは注射薬を入手したものの、根本的な解決がしたく、そのためにはペク総括に会えと言われた。ペク総括に会うと「お母さんは元気よ!」と聞かされる。その最後のシーンにだけ出てくるジャユンの姉。「姉に手を出したら首が飛ぶわよ」と不吉な笑いで第一部作は終わる。
- 『増殖』
血まみれの少女が裸足で厳寒の大自然をさまよい歩き、母親の声が脳内に響くと、激的な頭痛が起こるシーンで始まる第二部作の『増殖』。
数奇な宿命を背負った主人公の少女を演じたシン・シアは、1408人が参加したオーディションによって発掘された新星で、期待される女優の一人です。
場面は一転して、サヌォル・ファション社員の社員旅行のバスの中。バス内で一人の女子社員以外は、崖からの転落死という結末で全員殺害されていまいます。
眼を覚ます女子社員のそばにはドクター・ぺクとその妹ペク総括がいます。その女子社員は妊娠しておりお腹の子を気にしますが、ドクター・ペクから双子の女の子は無事で、その双子にはさらに兄弟姉妹ができると訳のわからないことを話し始めます。
そこから再び、現代に話が戻ります。
最初のシーンにいた少女は血だらけですが、ある研究施設内におり、人体実験されたとも思われる他の実験台は全員殺害されてしまっています。
少女だけが生き延び、外に出ると再び激しい頭痛に襲われ、鼻血が出てしまいます。
「転覆」のジャユンと同じ現象です。
その後、“超人間主義派”の男性からペク総括に「上海ラボ」が襲撃され、メインにも問題が生じたことを伝えに来ます。ここを襲撃したのがジャユンであることは後からわかります。また、ジャユンは「土偶」なる者達を「上海ラボ」解放しており、最初の人体実験された実験台は「土偶」により殺害されていたのです。
“超人間主義派”の男性から「箱舟(アーク)」の存在を知るのは“超人間主義派”かペク総括率いる“ユニオン派”のみで、アークとはジャユンのような超越した特殊能力者を作り出す研究室の事で、今回の騒動は“超人間主義派”ではないので、ペク総括率いる“ユニオン派”による仕業では?・・・と。実はジャユンによる策略なのですが・・・。
少女は偶然からギョンヒという女性が面倒をみることになります。ギョンヒの叔父は闇医者をしており、少女に打ち込まれた何発もの弾丸を取り除いて、傷だらけのはずが一瞬、眼を離した後には傷がなくなっており、驚愕し、ギョンヒに少女とは関わらない方が良いと忠告します。少女はドクター・ペクと“超人間主義者達”が造りたがっていた完全体のモデル。
実はバス内で唯一生き残された女性が仮親の役目をさせられたのでした。
つまり、双子の母親ではなく、体内で育っていたジャユンの」胚細胞からクローンを造ったのです。この施設が「箱(アーク)」であり、クローン達には脳にチップが埋め込まれている。
ジャユンと違いクローンのため、薬に頼らなくとも何の支障もないため、ペク総括は少女の始末を超人間主義者であるチョ曹長に命じます。
その後、少女を殺害すべくチョ曹長一派がギョンヒの家に来ますが、そこに土偶もやってきて鉢合わせすることになります。そして、超人間主義者達と土偶の戦いに発展するのですが、土偶の方が一枚も二枚も強さ的には上手で超人間主義者達は手が出せません。
その戦いの中で優しくしてくれたギョンヒと弟の死を感じ取り、怒りを覚える少女。
レベルの違う土偶達に太刀打ちできないチョ曹長率いる超人間主義者達ですが、その土偶達をもいとも簡単に始末する少女。
そして、最後に登場するのがジャユン。ジャユンは土偶達に妹である少女を解放しろ!と言ったのに何故、殺そうとするのか?と土偶達を瞬殺してしまいます。妹である少女は二人の母親と意識が繋がっているため、ジャユンは妹が必要であり、妹と2人で母親を探しに出る。
※高血圧性頭痛・頭蓋内圧亢進性頭痛
鼻血は高校生にもなるとそう簡単には認めません。幼少期に良く鼻血を出すのは鼻中隔(びちゅうかく)の入口にある「キーゼルバッハ部位」に毛細血管が集中しており、その部位を触ったり、血流が一過性に増えることにより出血します。ですので、成人になって鼻出血を繰り返す場合は血液がサラサラになる薬剤を服用している、急激な高血圧などしかあり得ないのです。
ちなみにチョコレートやピーナッツを食べ過ぎても鼻血はでません。
また、「人間は脳の10%しか使っていない」という言説は広まっていますが、これは間違っています。実際には、人間の脳は常に100%活用されています。脳は日常生活のあらゆる瞬間で情報の処理や活動を行っており、エネルギーを消費しています。人間の脳は、1%たりとも稼働しない不要な部分がある訳ではなく100%稼働しますが、ただ、それは同時に稼働させるわけではないのです。
もし人間の脳を100%使えたら・・・ということに関しては、本来ならば不可能な話です。生命の危機に瀕したとかの緊急非常事態なら、極々短時間ならば稼働可能なのかも知れません。その際は人間の能力の限界を超えた最高のパフォーマンスが得られるはずですが、その様な状態が長く続くと脳内のブドウ糖や酸素不足に陥り、脳に不可逆なダメージを与えると考えられます。人体の2%しか占めない1400gの脳が通常使用する酸素量は身体全体の25%、また、1400gの脳は1時間あたり5gのブドウ糖、つまり身体全体の46%のブドウ糖を必要とします。脳が必要とする血液量は1分当たり840mlと心拍出量の15%も使用します。それだけ多くの酸素とブドウ糖を要求すると同時に大量の血液で冷却しないと放熱が行き詰まります。ですので、通常では脳の活動領域を広げる事は不可能で、部分部分を分割して使っています。もし、この限界を超えると、不可逆な脳へのダメージが発生します。
ただ、もしも脳細胞を常に100%活動させることができるのであれば、その時の脳循環血液量は、1分当たり8000mlにもなってしまい、通常の倍以上の心拍出量が必要となり、身体活動を維持するとなると通常の心拍出量の10倍、ブドウ糖も身体全体の500%以上、酸素量も250%以上と死を意味します。
ジャユンはこの状態を特殊訓練や遺伝子操作で耐えられるようになっており、特に身体能力まで活性化した際は恐らく血圧は1500~2000mmHg以上と笑ってしまう数字な訳です。ですので、これだけの血圧値であれば鼻血は当たり前ですし、頭蓋内圧も異常なまで高圧になっているはずです。ちなみに白血病は異常な白血球高値状態となり、加えて赤血球や血小板数の減少を認めます。逆に赤血球数が異常高値を認める真性赤血球数増加症(真性多血症)という赤血球の癌もあります。ジャユンを診察した医師も病名は当然わかるはずもなく、恐らく異常な赤血球数高値、白血球数高値を認めており、骨髄移植しか治療法はないと伝えたのだと思います。
ですので、仮にジャユンの状態があり得たとすれば、頭蓋内圧亢進性頭痛、高血圧性頭痛の両方で頭痛が襲ってくると考えられます。
ちなみに「高血圧性頭痛」は収縮期血圧が180mmHg以上もしくは拡張期血圧が120mmHg以上で生じますし、「頭蓋内圧亢進性頭痛」は脳脊髄液圧が250mmH2O以上(成人では70~180mmH2Oが正常)で起こります。