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エムガルティ®(Galcanetumab)-其の1-

Dr.丹羽の頭痛コラム

2021/1/1/22に承認され、2021/4/26より保険適応となりましたエムガルティ®。
当院では臨床治験の段階からたくさんの方にご協力頂き、その効果も実感していたのですが、あまりの高額ゆえ、ほとんど希望される方はいないであろうと考えていました。
ところが、いざ蓋を開けてみれば、たくさんの方が待ちに待っていた治療法であり、当院ではおそらく東京では一番、日本全体でもベスト5に入るくらいに、片頭痛患者さんに使用しています。
そこで保険適応になるまでのエムガルティ®の詳細をご説明します。
その前に100近くもコラムを書いていながら、“片頭痛”の診断基準、つまりは、どうだったら片頭痛持ちと言えるのか?の説明を一切しておりませんでした。
今回は“片頭痛”の診断とエムガルティ®の適応となる片頭痛、エムガルティ®使用可能な医師などについてお話しし、エムガルティ®の特徴は次に説明します。
まず、我が国には片頭痛をお持ちの方は約1000万人と推測されます。
片頭痛は「前兆のある片頭痛」と「前兆のない片頭痛」に分かれ、また、頭痛発作の日数から「反復性片頭痛」と「慢性片頭痛」に分かれます。
現状では最も新しい国際頭痛分類第三版(ICHD-3)による「前兆のない片頭痛」とは
以下のA~Cを満たす発作が5回以上
A.頭痛の発作時間が4~72時間
B.頭痛は①片側性、②拍動性、③中程度~重度の痛み、④日常的動作(歩行や階段昇降など)により頭痛が増悪する、あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける、の内2項目を満たす
C.頭痛発作中に①悪心または嘔吐、②光過敏および音過敏、の1項目を満たす
となります。つまり、片側がズキッズキッとして動くと辛くて、吐き気を伴う典型的な頭痛でも月に4回しかない場合は「前兆のない片頭痛の疑い」となってしまうのです。また、この頭痛発作時間があいまいで、片頭痛発作中に寝てしまい、目覚めたときには頭痛がない場合でも、発作の持続時間は目覚めた時までとする!と決まっています。
「前兆のある片頭痛」とは
以下のAおよびBを満たす発作が2回以上
A.完全可逆性前兆症状(①視覚症状→閃輝暗点がほとんど、②感覚症状→閃輝暗点の次に多くチクチク感として現れる、③言語症状→頻度は低いが失語がほとんど、④運動症状、⑤脳幹症状、⑥網膜症状)の一つ以上
B.①少なくとも1つの前兆症状は5分以上かけて徐々に進展、②2つ以上の前兆が引き続き生じる、③前兆症状は5~60分持続、④少なくとも1つの前兆症状は片側性、⑤前兆出現後60分以内に頭痛が発現
ちなみに1つの前兆症状が60分なので、3つの前兆が起これば180分まで良いことになります。
「慢性片頭痛」とは
頭痛が月に15日以上の頻度で3か月を超えて起こり、少なくとも15日のうち8日は片頭痛の特徴も持つもの、と定義されます。
つまり、8日だけ片頭痛発作であれば、もし、月のうち28日も頭痛があって20日は緊張型頭痛でも「慢性片頭痛」と診断されます。以前にもコラム(27)でお話しましたが、片頭痛持ちの方の80%以上に頸椎変化(スマホ首、つまりはストレートネックがほとんど)が認められますので、月のうち28日も頭痛があって・・・は良くある話なのです。
「反復性片頭痛」とは
簡単に言えば、「慢性」でないもの、つまりは月に5~14日の片頭痛発作があるもの、と定義されます。
ここからが片頭痛予防のお話です。予防療法の適応は、
① 発作回数が2回↑/月もしくは6日↑/月
② 日常生活に支障が出るほどの高度の片頭痛発作
③ トリプタン製剤や市販の鎮痛薬などの急性期治療が効かない、もしくは使用できない
④ 「薬物乱用頭痛」状態
⑤ 重大な神経障害を起こし得る特殊な片頭痛(片麻痺性片頭痛、脳幹性前兆を伴う片頭痛、片頭痛性脳梗塞など)
の何れかが当てはまる方が適応となります。
予防薬によるゴールは予防療法前と比べて頻度や痛みの程度を50%以下にすることです。
効果判定に2~3か月は最低継続し、6~12か月の予防効果が成功すれば、その後に3~6か月かけて徐々に減量します。中止時期は未定とされています。
この予防薬の最先端かつ最も奏効性の高いものがエムガルティ®です。
費用が一番のネックで初回は1ccを2本皮下注射で¥27,020(¥13,480×2+¥60)、その後は1ccを1本/月で¥13,540(¥13,480+¥60)。1ccはインフルエンザ予防接種の倍位の量です。
3か月以上期間を空けてしまうと2本から再スタート。2か月までならば1本で再スタートとなります。
また、エムガルティ®使用可能な方と医師の条件もあります。
エムガルティ®使用可能な患者さんは
① Migraine Headache Days(片頭痛が起こった日数)が4日以上
② 急性期治療を適切に使用しても日常生活に支障があるか、もしくは片頭痛発作抑制薬(トリプタンやエルゴタミン製剤)の効果が不十分か、継続できないか、副作用ため使用できない時
医師の条件は初期研修2年後に5年以上の頭痛診療経験、かつ、日本神経学会専門医、日本頭痛学会専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本脳神経外科学会専門医のいずれかを有する医師と決まっています。
次回はエムガルティ®の作用機序や臨床治験でも驚くべき奏効性のデータをご紹介します。