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エムガルティ®(Galcanetumab)-其の2-

Dr.丹羽の頭痛コラム

エムガルティはCGRP自体の効果をなくす遺伝子組み換えヒト化IgG4モノクローナル抗体で、Galcanetumab(ガルカネズマブ)という薬品名です。薬品名などはどうでも良いことなのですが、最後の“マブ”とはモノクローナル抗体という意味です。
メリットは、モノクローナル抗体で分子量が大きい(長い時間をかけて医師が作り出してきた低分子化合物の300倍)ため、脳や肝臓、腎臓には入らず副作用がほとんどないという点。その他、月に1回だけ皮下注射すれば良いという点でしょう。
では、CGRPとは何でしょうか?
Calcitonin gene-related peptide (カルシトニン遺伝子関連ペプチド:CGRP)は1982年に神経伝達作用を有するペプチドとして発見。CGRPは三叉神経節ニューロンや脳動脈に存在し、血管拡張や炎症促進する作用がある、20~40歳代で最も高く、60歳で低下、チリやペッパー・唐辛子の成分であるカプサイシンによっても放出される、CGRP阻害自体は定常状態の血管を収縮させることはない、などの特徴を持っています。
また、CGRPは脳動脈において強力な血管拡張作用を有する、片頭痛発作時に外頸静脈のCGRPを増加させる、片頭痛発作時にスマトリプタン(イミグラン®)投与後、頭痛症状改善に伴いCGRPレベルも正常化する、片頭痛の患者さんにCGRPを注射すると6~12時間後に持続性片頭痛様発作を惹起してしまう、などの特徴を持ちます。
生理やストレス、食べ物、天候の変化など片頭痛誘発因子の情報はまず脳の視床に伝えられます。するとそのすぐ下にある視床下部が反応し、セロトニンを減少させます。セロトニンが減ると、三叉神経がコントロールから外れて興奮し、CGRPという血管拡張物質を放出します。これによって血管が拡張すると、炎症を起こす物質が周辺の組織に染み出し、痛みを引き起こします。これが片頭痛のメカニズムです。このCGRPを予防的に抑え込むか、CGRPが出て来てしまったら拮抗薬でやっつけられれば、片頭痛の辛い痛みから解放されるのです。
CGRPが神経に作用できなくなる様にする抗CGRP受容体抗体(Erenumab: アイモビーク®という商品名でアムジェン株式会社が2021/6/23に承認され、2021/8/12より保険適応の・・・予定)とCGRP自体の効果をなくす抗CGRP抗体(Galcanetumab: エムガルティ®、Fremanetumab: アジョビ®という商品名で大塚製薬株式会社が申請中、Eptinezumab: 治験進行中)があります。
合計4種類のCGRPを作用させなくする予防薬はEptinezumabのみ静脈注射で、他の3種類は1回/月もしくはFremanetumab の1回/3か月の皮下注射で非常に効果が高く、頓挫薬も予防薬もあまり効果がない重い片頭痛持ちの方にも奏効する治療薬です。
欧米では最初にErenumab(アイモビーク®)が保険適応となり、次いでGalcanetumab(エムガルティ®)であったため、Chicagoの友人からは、まずはErenumab、奏効性がない場合のみGalcanetumabに変更していたと聞きます。
エムガルディ®が発売されるまでに、たくさんの臨床試験が行われてきました。
① 国内第Ⅱ相試験(CGAN試験)→2016/11/9-2019/1/18に施行
495例の日本人反復性片頭痛を対象。二重盲検比較試験(医師も患者さんも中身が偽薬か実薬か分からない)で偽薬群、Galcanetumab120群(初回は240)、Galcanetumab240群で6か月使用したところ、偽薬群で片頭痛が起こった日数が8.6日→8.3日、Galcanetumab120で8.6日→5.6日、Galcanetumab240で9.0日→5.64日でした。


6か月間のエムガルディ®使用で、その内1か月間だけ片頭痛発作が0回になった患者さんは38.8%にも認め、6か月間全てで0回になった患者さんは0.7%,、5か月連続であれば片頭痛発作が0回になる割合が2.8%も驚異的な数値です。これは前半の3か月よりも後半の3か月でより顕著でした。
② 国際共同第Ⅲ相二十盲検比較試験であるCGAW試験(CONQUER試験)→2018/7/31-2019/9/19に施行
過去10年間で予防薬2〜4種類に効果が認められなかった反復性片頭痛、慢性片頭痛の患者さん462例(日本人42例)にも確実な効果が得られたことも大きな特徴の一つと言えます。偽薬群、Galacanetumab120群(初回は240)で3か月施行し、偽薬群で片頭痛が起こった日数が12.9日→11.4日、Galcanetumab120で13.4日→8.4日でした。
③ 国内長期投与試験(CGAP試験)→2017/2/7-2019/8/10に施行
CGAN試験の反復性片頭痛240例と慢性片頭痛65例を対象とした試験で、Galacanetumab120群(初回は240)、Galcanetumab240群で12か月の安全性をみる二重盲検比較試験。副作用は上咽頭炎が45%程度で、その他は注射部位の紅斑19%、掻痒感17%程度でした。
効果はGalacanetumab120群の反復性片頭痛で片頭痛が起こった日数は8.12日→4.06日、慢性片頭痛で片頭痛が起こった日数は20.21日→10.71日、Galcanetumab240群の反復性片頭痛で片頭痛が起こった日数は8.35日→5.05日、慢性片頭痛で片頭痛が起こった日数は18.68日→10.62日。


上の図はエムガルティ®を12か月投与後、エムガルティ®を中止し何も予防薬を服用せず4か月間観察したデータですが、驚くことに、この4か月間は全患者さんで予防薬は不要だったというものです。その後、長期間、予防薬を服用せず過ごせている人も多い魔法のような薬剤なのです。
今後は、作用機序の異なる抗CGRP受容体抗体(アイモビーク®)がアムジェン株式会社から2021/8には販売される予定ですから、使用可能な抗CGRP製剤は、一応、この夏で全て出揃うことになります。
片頭痛持ちの方にとっては良い意味での新たな時代の突入となります!