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硬膜動静脈瘻&内頸動脈海面静脈洞瘻

Dr.丹羽の頭痛コラム

頭痛を起こす稀な脳神経疾患、その3です。
脳神経系疾患でめまいを伴わずに耳鳴りを起こす疾患は、ほとんど皆無です。「頭痛+耳鳴り」があれば、硬膜動静脈瘻もしくは内頸動脈海綿静脈洞瘻を疑う必要があります。
頭蓋骨の下に脳を包む3層の膜があり、その一番外側にある硬膜の中にも脳と同じ様に動脈と静脈が存在します。硬膜の中を走る動脈(硬膜動脈)は外頸動脈から分岐します。この硬膜内の動脈と静脈には直接の連絡はなく、動脈が硬膜や脳を栄養した後に静脈となって流れ出ていきます。
硬膜動静脈瘻と呼ばれる病気は、硬膜の中で本来は直接のつながりのない動脈と静脈が何らかの原因で直接つながってしまう病気をいいます。この病気は、脳動静脈奇形の様な先天性疾患(生まれながらに持っている)ではなく、生まれた後から頭部外傷や脳静脈洞血栓症などをきっかけに発症するといわれていますが、はっきりとした原因は分かっていません。日本では一年間に100万人当たり約3人程度に起こる稀な病気です。
硬膜動脈は本来脳を栄養するものでなく、かつ動脈で圧が高いため、脳から出てきた静脈と連絡ができると様々な問題を生じえます。高い動脈の圧が静脈に負担をかけ、脳出血を生じる事もあります。また脳出血を起こさなくても脳の静脈圧が高い状態が続くと、脳を栄養した血液が滞って流出しにくくなり、結果としてその部位の脳の機能障害(麻痺、言語障害、けいれんなど)を生じることもあります。脳の静脈圧の上昇は脳全体の圧の上昇にもつながり、慢性的な頭蓋内圧亢進症は視力の低下・喪失などにつながることもあります。脳と目はつながっていますので目の方に流れる静脈に高い圧がかかることもあり、この場合は目が充血したり、眼圧が上昇したり、目の動き、視力が悪化する場合があります。脳内の静脈まで高い圧がかからない場合でも、動脈と静脈の連絡によって耳鳴りが続くこともあります。
その他、眼を包んでいる骨である眼窩の後方、脳の下側に海綿静脈洞と呼ばれる脳からの静脈が集まってくる部分があります。この海綿静脈洞には眼球と眼窩の静脈も流れ込んでいます。この海綿静脈洞を脳への動脈である内頸動脈が通っているのですが、内頸動脈から海綿静脈洞へ出血することがあります。これが内頸動脈海綿静脈洞瘻です。出血すると海綿静脈洞の圧力が高まり、眼窩・眼球の静脈がうっ血、さらには逆流して、典型的には、眼球突出、拍動性雑音、結膜充血の三症状が出現します。拍動性雑音は心拍に合わせて脈打つようにご本人でも聴くことができます。この三症状以外に、複視、眼圧上昇、視力低下の眼症状と、脳の静脈が逆流すると、耳鳴り、頭痛、めまい等が起こります。さらに、失明、脳出血による重篤な後遺症を引き起こすことがあります。内頸動脈海綿静脈洞瘻を起こる原因としては、動脈瘤破裂と外傷性があります。
耳鳴り、頭痛、視力障害、眼球運動障害などが認められる場合はMRIやMRA(MRアンギオ)検査、CTアンギオさらにカテーテルによる脳血管撮影を行い、治療法を決定します。
硬膜動静脈瘻を治療せずに経過を見た場合、タイプによっては高い確率で重症化することが知られています。硬膜動静脈瘻の年間出血率は1.8%で、脳の静脈へ異常な血流が流れ込まない場合には経過は非常に良好で、一般的には治療が勧められるケースは少ないといえます。
一方で、脳血管撮影で脳の静脈へ異常な血流が流れ込んでいる状態では脳出血や静脈性梗塞などの重大な疾患を発症する可能性が高く、積極的な治療が勧められます。また、海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻で視力低下、眼球運動障害、眼圧上昇などの症状を伴っている場合も治療が必要です。
治療には、①血管内治療による硬膜動静脈瘻塞栓術、海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻も血流が速く自然治癒は期待できませんので経動脈的塞栓術、つまりカテーテルによる治療、②開頭による硬膜動静脈瘻根治術、③定位的放射線(ガンマナイフ、サイバーナイフなどピンポイントで動静脈瘻部を照射する治療法)があります。