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米国頭痛学会(AHS)年次meeting

Dr.丹羽の頭痛コラム

2018/6/28~7/1までSan Franciscoで開催されました第60回AHS年次meetingに参加・発表してきました。私が発表した内容につきましては論文化された後にゆっくりご報告させて頂きます。
コラム(43)、(57)でも触れてきましたCGRPが特に旬である状態が続いております。
CGRP製剤の開発が米国を主体に様々な製薬メーカーで行われています。CGRP製剤にはモノクローナル抗体(生物学的製剤)と低分子化合物製剤の2種類があります。この違いはあまり深く考えなくて良いのですが、気になる方もいらっしゃると思いますので、その差について簡単に触れております。モノクローナル抗体とは遺伝子工学的に作成された細胞で産生され、生体内では他の物質に変換されない、つまりは他の薬剤と相互反応を起こすことがなく、脳内には到達しませんが、細胞内で代謝されてしまうので排泄経路を気にする必要がありません。とても長く生体内で効果が持続しますので月に1回程度の静脈注射で良いのです。逆に低分子化合物製剤は化学合成されて産生され、脳内にも到達し、肝臓か腎臓で代謝されるため、他の物質との競合にも注意が必要です。半減期(薬の効果持続)が短いため、1日に1~2回は服用しなくてはなりません。
モノクローナル抗体としてはAmgen社のerenumab(CGRPレセプター抗体)、TEVA社のfremanezumab(CGRP抗体;これのみ大塚製薬株式会社が日本では担当)、Alder社のeptinezumab(CGRP抗体)、Lily社のgalcanezumab(CGRP抗体)があり、低分子化合物製剤としてはAllergan社のubrogepantとatogepant、Bio haven社のrimegepant(CGRP受容体拮抗薬)があります。日本でもAmgen社のerenumab、TEVA社のfremanezumab、Alder社のeptinezumab(CGRP抗体)、Lily社のgalcanezumab(CGRP抗体)の臨床治験が進められていますが、全て片頭痛の予防療法、つまりは片頭痛を起こしにくくする治療法でして、モノクローナル抗体は作り出すまでに莫大な費用がかかるため、厚労省の認可がおりたとしても、患者さんのご負担金(3割負担として)は2万円位にはなってしまうのでしょうか?
ここら辺は良くわかりませんが、今回の学会のfocusは片頭痛の急性期治療としての低分子化合物製剤です。これが日本でも認可されますとトリプタン製剤が効かない片頭痛患者さんにとてもとても朗報となります。何故なら低分子化合物製剤はモノクローナル抗体と違い、作り出すために莫大な費用はかかっていません・・とはいえ、トリプタン系薬剤位のご負担にはなってしまうのでしょうが・・。
一つ目は、米国Albert Einstein医科大学のLipton先生が報告された経口CGRP受容体拮抗薬であるrimegepant 75mgの反復性片頭痛患者の急性期治療(第三相)で1072名での検討の結果、服用2時間後にはplacebo(偽薬)と比べて有意に頭痛、不随症状の光過敏や音過敏、吐き気の軽減を認め、特に頭痛、光過敏を強く軽減できていました。Pain freeとまではいかなくとも1回の服用で48時間は有意に頭痛を軽減でき、その間に逆に片頭痛再発作を生じた患者さんは1/10以下であったと報告されています。また、rimegepant 75mgを1回の服用後、服薬2時間より3時間、3時間より4時間、4時間より8時間と服薬経過後の時間が長くなるにつれて、頭痛の軽減もアップしていました。重要なポイントは副作用で肝障害のために臨床治験が中止になったolcegepant、telcagepantと異なり、rimegepantではAST(GOT)やALT(GPT)といった肝トランスアミナーゼの上昇が543例中13例にしか認められず(placebo群でも543例中12例に認めました)、その上昇も正常上限を超える程度で、正常上限の3倍以上に上昇した症例はなく、つまりは肝障害を来さないことが証明されました。
メイヨークリニックのDodick先生(当院HPのトップページで小生と一緒に写っていらっしゃる国際頭痛学会理事長です!)は経口CGRP受容体拮抗薬であるubrogepant 50mgと100mgの反復性片頭痛患者の急性期治療(第三相;1300名以上を対象)を報告されました。Ubrogepant 50mgもしくは100mgを服用後2時間でplacebo群と比べて、ubrogepant 50mgでも100mgでも有意に頭痛(ubrogepant 50mgも100mgも同じで61%の症例で認めました)や不随症状の光過敏(光過敏のみubrogepant 100mgの方が50mgよりも良い結果で約半数の症例で消失しました)や音過敏、吐き気(音過敏や吐き気は逆に50mgの方が良く、音過敏は約60%、吐き気は約70%の症例で消失しました)の軽減を認めましたが、ubrogepant 50mgと100mgでは差は認めませんでした。Ubrogepant 50mgでも100mgでも服用後3時間で痛み軽減がピークとなり、8時間持続しました。Ubrogepant群871名中6名だけに肝機能障害を認め、その他の副作用としては服薬後48時間以内に5%未満の症例で吐き気、眠気、ドライマウスを認める程度でした。
どちらも日本で早期に認可されると良いですね!