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色過敏の証拠を何と日本人が・・・

Dr.丹羽の頭痛コラム

私がライフワークの一つとして研究を続けている過敏性についてです。片頭痛をお持ちの方は様々な外的刺激にとても過敏です。神経質ではなく良い意味でのsensitiveです。片頭痛発作時でなくとも光過敏や音過敏、臭い過敏は片頭痛持ちの方ならば少なからず経験があると思います。
コラム(68)で説明をさせて頂きましたアロディニアという現象を、片頭痛発作のピーク直後位から経験された方もたくさんいらっしゃると推測されます。おさらいをしますと、アロディニアとは何でも異常に敏感に感じる現象で「化粧ブラシで髪をとかすだけで頭皮が異常にビリビリする」、「水で手を洗うと、氷水の中に手を入れた様に痛い」、「そよ風が顔面に当たると木枯らしの様に顔表面が痛い」などなど、普通なら感じない程度の皮膚に触れた感覚でも刺激を痛みとして感じてしまう症状を指します。
とにかく片頭痛持ちの方は脳が非常に敏感です。
2017年にハーバード大学と当院から全く同時期に違う方法で、色による過敏性を国際学会で報告しました。ハーバード大学では色の過敏性は光過敏の延長線上の問題で、色過敏を持っている片頭痛の方は全員が光過敏を基盤に持っている、つまりは光過敏がないと色過敏は存在しないと論じています。私は反論するかの如く、光過敏がなくても色過敏が片頭痛持ちの方には存在することを証明しました。ただ、色に関する結論としては我々もハーバート大学も同じで、片頭痛持ちの方は緑色が楽、かつ片頭痛発作を軽くさせ、逆に赤色や青色は不快度が増し、さらには片頭痛発作を惹起する可能があるということでした。
どちらにしても色過敏は昔から存在するはずですが、それを論じた論文は愚か報告さえ今までにありません。何かエビデンスを残したものはないかを調べてみました。
すると、何と有名な芥川龍之介が自身の遺作として残していました。
様々な方が「歯車」という遺作(1927年に文藝春秋に初出)の中に片頭痛に関しての記載がある、とネットや著書で述べています。
その一節とは「僕の視野のうちに妙なものを見つけ出した。絶えずまわっている半透明の歯車だった。歯車は次第に数を殖やし、半ば僕の視野を塞いでしまう、が、それも長いことではない、暫らくの後には消え失せる代りに今度は頭痛を感じはじめる」「歯車は数の殖えるのにつれ、だんだん急にまわりはじめた。同時にまた右の松林は丁度細かい切子硝子を透かして見えるようになりはじめた。三十分ばかりたった後、僕は烈しい頭痛をこらえていた」(抜粋)であり、閃輝暗点から始まり、その後に片頭痛発作が起きる様子を表現しています。これは誰もが抜粋する部分なのですが、私が注目したのは以下の部分です。「電燈の光に輝いた、人通りの多い往来はやはり僕には不快だった。僕は努めて暗い往来を選び、盗人のように歩いて行った」は光過敏を指し、「僕は縁起の好い緑いろの車を見つけ」や「彼女の着ているのは遠目に見ても緑いろのドレッスに違いなかった。僕は何か救われたのを感じ・・・」、これこそが我々やハーバート大学がちょうど90年の時を経て報告したものでした。芥川龍之介さんの描出の素晴らしさ、鋭さには驚かされました。やはり、片頭痛持ちの方は天才ですね!