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音楽家の頭痛①

Dr.丹羽の頭痛コラム

2023年も11月になり、コロナは現状では収束しているものの、A型インフルエンザがH1N1とH3N2香港型という全く別物の2つが同時流行しており、同月に2回A型インフルエンザで受診されるお子様も多い状況です。
さて、ここからしばらく音楽家の頭痛について解説します。
音楽のセンスに傑出している頭痛持ちはたくさんおり、頭痛持ちは天才肌であることがよく分かると思います。
まずは、Hildegard von Bingen(1098~1179)です。
彼女は12世紀ドイツのライン河畔ルーベルツブルク女子修道院長であり、彼女は史上最初の女性作曲家です。
ヒルデガルド・フォン・ビンゲンは、様々な視覚症状を伴う片頭痛持ちと考えられています。
40歳頃に「生ける光の影」(umbra viventis lucis)の幻視体験(visio)をし、女預言者とみなされ、43歳の時に視覚体験の詳細と実際の体験挿絵35葉を折り込んだSciviasなるラテン語の書を残しています。
彼女の幻視体験には、「輝く美しい大きな星が一つ見え、そのまわりの幾つかの落ち行く星とともに南へ流れ、急に全てが消え真っ暗となる」という表現は片頭痛の前兆である閃輝暗点と解釈することができます。
また、「背景には、波状の同心円の中心に光り輝く星がおかれている」、「輝く星のシャワーが消えていく様子」も閃輝暗点と合致しており、その他、中心点から広がっていく典型的な城塞状形態が描かれており、この中心は明るく輝き、着色されている挿絵、この中心から広がる「城塞状」にポイントがあり、閃輝暗点の消えゆく視界は綺麗な円状ではなくギザギザであり、ヒルデガルド・フォン・ビンゲンは少なくとも片頭痛の前兆である閃輝暗点だけでも3つ以上を体験していることになります。
彼女の視覚体験から、容易にICHD-3(国際頭痛分類第3版)の「典型的前兆を伴う片頭痛(code 1.2.1)」を永く病んでいたと診断できます。
彼女は医学・薬草学に強く、ドイツ薬草学の祖とされましたが、当時は片頭痛の特効薬は薬草学的にもなく、前兆があり片頭痛が来ることが予測できる訳ですから、前兆が起きたら部屋を暗くして、頸動脈(喉仏の横)を冷やして、静かに過ごすことで片頭痛発作を軽減できたはずです。