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高コレステロール血症と片頭痛

Dr.丹羽の頭痛コラム

半年位前のことです。慢性片頭痛で永年辛い思いをされているChicago在住の友人からメールが届きました(ご本人の許可のもと、掲載しております)。
アメリカでは日本で未だ臨床治験が終わらないCGRP受容体拮抗薬(コラム71をご覧ください)が既に保険診療で使用可能で、つまり、Chicago在住の友人は現在使用可能な急性期治療薬(トリプタン製剤など)や予防療法はほぼ全て使用経験があり、ある程度はCGRP受容体拮抗薬で片頭痛発作が抑えられていました。彼女からのメールには「検診で悪玉コレステール、つまり、LDLコレステールが非常に高値なので、脳卒中や心筋梗塞予防のために直ぐに服薬しなさい!と言われた。服薬しないといけない状況ですか?」でした。そのLDLコレステール値を伺ってビックリ。「直ぐに服薬を開始して下さい!」と返信しました。そして、その数ヶ月後に彼女から「先生、ビックリ!悪玉コレステールを下げるお薬を継続服用してたら、片頭痛発作が激減しちゃった!」と。
この悪玉コレステールを下げる薬はHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン製剤)と言い、悪玉コレステールを下げる作用のみではなく、血圧を安定化したり、狭心症や脳卒中・糖尿病の予防になったり、骨を丈夫にして骨粗鬆症を予防できたり、白内障の予防・・・と万能薬なのです。日本ではスタチン製剤は、スタンダードスタチンとしてプラバスタチン(メバロチン)、シンバスタチン(リポバス)、フルバスタチン(ローコール)が、作用の強いストロングスタチンとしてアトルバスタチン(リピトール)、ピタバスタチン(リバロ)、ロスバスタチン(クレストール)があります。このように記載すると何てスゴい薬なんだろう!と驚かれる方が大半だろうと思います。このスタチン製剤は血管内皮機能改善(つまり、血管を強くして伸縮反応を良くして、血管内のプラークをお掃除してくれる)、抗炎症作用、血小板凝集抑制作用(つまり、血管内のドロドロ状態をサラサラにしてくれる)など循環が関わる疾患にはとても良い作用があるのです。全員に同じように効くか否かは別にして・・・、理論上は効くのです。副作用といえば、筋肉痛やビタミンD欠乏などがありますが、スタチン製剤とビタミンDを一緒に服用すると筋肉痛まで抑えられるのです。
長い前置きはここまでにして、"片頭痛にスタチン製剤は効くのか?"ということですが、2014年にはイタリアから3ヶ月間のスタチン製剤服用で、2015年には米国ボストンから6ヶ月間のスタチン製剤の服用で悪玉コレステール値を下げるのは当然として、片頭痛の発作回数を減らすだけではなく頭痛の程度も軽くしたという報告が相次ぎました。その理由としましては、やはり、血管内皮機能改善や抗炎症作用、血小板凝集抑制作用に起因しています。そこだけに言及するのは少し無理があるかもしれませんが・・、というのは私見ですが・・・。
私の臨床経験に基づく印象では、確かに片頭痛発作が減る方もいらっしゃいますが、残念ながら変化がない方も沢山おり、脳卒中や心筋梗塞予防にはとても大切ですが、片頭痛に対してはそこまでスタチン製剤は万能薬ではないと感じています。他の高名な頭痛学者に聞いても同じ様なニュアンスでした。
私の友人の様に悪玉コレステール値が高値で動脈硬化の進行を抑制して脳卒中や心筋梗塞予防のために服用し、その効果に片頭痛改善ならば一石二鳥でいうことはありませんが、総コレステロール値や悪玉コレステール値が高くもないのに片頭痛を減らそうとして強いスタチン製剤を服用し過ぎますと、総コレステロール値が下がりすぎ脳出血の原因にもなり得ますので、その点は十分にご注意下さい。