TOPへ

ブログ

Galcanetumab

Dr.丹羽の頭痛コラム

片頭痛発作が何回も起こる方は、今までに予防薬、つまりは片頭痛発作を起こしにくくする薬を勧められたことがあると思います。
片頭痛の予防療法は①発作回数が2回↑/月もしくは6日↑/月、②日常生活に支障が出る位、片頭痛発作が強い、③トリプタン製剤や市販の鎮痛薬などの急性期治療が効かない、もしくは使用できない、④薬物乱用性頭痛になってしまっている、⑤重大な神経障害を起こし得る特殊な片頭痛(片麻痺性片頭痛、脳幹性前兆を伴う片頭痛、片頭痛性脳梗塞)の何れかが当てはまる方が適応となります。
我々が目標とするゴールは予防療法前と比べて頻度や痛みの程度を50%以下にすることです。
現在までに片頭痛予防薬として効果が認められている薬剤(日本で保険適応があるか否かは関係ないとしての話ですが・・・)として、β遮断薬であるプロプラノロール、カルシウム拮抗薬である塩酸ロメリジンやべラパミル、抗てんかん薬であるバルプロ酸ナトリウムやトピラマート、抗うつ薬であるアミトリプチリンなど多数ありますが、どの薬剤を最初に使うかはアメリカや欧州、台湾などで全て異なっており、また、驚くことに詳細な片頭痛予防の機序も分かっていないのです。
その様な中、確実な機序で予防効果を示す抗CGRP製剤が2021/4から使用可能になります。
CGRPは今までにもコラム(43)、(57)、(71)でも触れてきましたが、おさらいです。生理やストレス、天候の変化などの片頭痛誘発因子の情報はまず脳の視床に伝えられます。するとそのすぐ下にある視床下部が反応し、セロトニンという脳内物質の量を減少させます。セロトニンが減ると、脳神経の1つである三叉神経がコントロールから外れて興奮し、CGRPという血管拡張物質を放出します。これによって血管が拡張すると、炎症を起こす物質が周辺の組織に染み出し、痛みを引き起こします。これが片頭痛のメカニズムです。抗CGRP製剤は血管を拡張させるCGRPをブロックする薬で、欧米では既に沢山の片頭痛持ちの方が使用しています。この薬は皮下注射すると効果が1~2カ月続きますし、分子量が大きいため、脳や肝臓、腎臓には入らないので副作用が少ないという利点があります。
この抗CGRP製剤には、CGRPが神経に作用できなくなる様にする抗CGRP受容体抗体(Erenumab: エイモビグ?という商品名でアムジェン株式会社が申請中)とCGRP自体の効果をなくす3種類の抗CGRP抗体(Galcanetumab: エムガルディという商品名で日本イーライリリー株式会社と第一三共株式会社から申請し2021/1/22に承認され2021/4から使用可能に、Fremanetumab: アジョビという商品名で大塚製薬株式会社が申請中、Epinetumab)があります。
Galcanetumabは1回/月の皮下注射、Fremanetumabは1回/3ヵ月の皮下注射、Epinetumabのみ静脈注射で現在、臨床治験が進行中です。
Galcanetumab(エムガルディ)が2021/4から使用可能になるのですが、やはりメリットとデメリットがあります。
まずはメリットですが、モノクローナル抗体で分子量が大きいため、脳や肝臓、腎臓には入らないので副作用が少ないという点です。その他、月に1回だけ皮下注射すれば良いという点でしょう。エムガルディには120mgオートインジェクターと120mgシリンジがあります。オートインジェクターはご自身でどこでも打てますが、注射が怖い方は120mgシリンジを医療機関で打って貰えば良いのです。初回だけ240mgのため、2本打つ必要があります。
1本1ccですので、皮下注射される量としてはインフルエンザ予防接種の倍位の量です。初回だけ4倍量となりますが・・・。
エムガルディが販売されるまでに、たくさんの臨床試験が行われてきました。その中でもCGAW試験といって、過去10年間で前述した予防薬2~4種類に効果が認められなかった反復性片頭痛、慢性片頭痛の患者さまにも確実な効果が得られたことも大きな特徴の一つと言えます。
残念ながら、臨床治験症例数が少なく中止になってしまいましたが、Galcanetumabを300mg/月の皮下注射で、反復性群発頭痛の発作も軽減できる可能性があります。
デメリットはやはりコストでしょう!
まだ、薬価未収載、つまりお値段が決まっておりませんが、恐らく120mgで\70,000、3割負担の方で\21,000、初回は\42,000と結構ビックリするお値段になります。
副作用としては、注射部位の注射後の痛み、腫れ、しこり、痒みが圧倒的に多く(10~15%)、その他には目立った副作用がありませんでした。
当院でもたくさんの方にご協力を頂き、臨床試験に参加しましたが、個人的な感想としても、効き目は素晴らしいと感じています。本当に頻回の片頭痛発作で困られている方には高額ではありますが、朗報かと思いますので、是非、かかりつけ医にご相談されてみては如何でしょうか?